SUMITA 35mm F2 裏話部品屋が、初めて
レンズを作るまで
PROLOGUE
100周年記念に、写真用レンズを作ろう!
そんなプロジェクトが立ち上がったのは2021年の初秋。
住田光学はレンズを作っていたんじゃないの?
と思われる方もいるかもしれませんが
住田光学で作っているレンズは、部品としてのレンズ。
それらを複数枚組み上げた、いわゆるカメラ屋さんで売っている
「写真用レンズ」を作ったことはありません。
農家さんが、レストランをやっていないのと同じです。
作るなら、まだこの世にない写真用レンズを作りたい。
超広角レンズや、超望遠レンズなどの特長のあるレンズもいいけれど
世界中のレンズメーカーで作られている「35mmレンズ」。
この世界最高峰を作ったらカッコイイ。
原材料から部品レンズを作って、さらに最終製品の写真用レンズまで
一貫して作れる会社は世界中を探しても他にありません。
100周年に相応しい事業です。
でもまさか、こんなに難しいなんて・・・
難しすぎて100周年を過ぎても完成しないなんて
この時は思いもしませんでした・・・
社長の住田です。ここで補足を。
祖父が自宅の庭でレンズ加工を始めてから100年。
我が社の100年は、常に新しいことにチャレンジする100年でした。
100年の節目を迎えた今回は、
写真用レンズの開発をすることになりましたが、
この分野へ新規参入をするわけではありません。
(※ 記念に少し限定販売をする予定はあります。)
では、なぜこのチャレンジをするのか。
それは、自分達のできないことを知りたいからです。
できないことを、できるようにする中で
様々な知識、技術、経験を積むことができ、
私たちの「当たり前」を底上げすることができます。
「当たり前」のレベルが上がれば、
全てのクオリティとレベルが上がります。
レンズに携わる企業として、総合的な技術を身に付けたいのはもちろんですが
我が社の顧客である写真用レンズメーカーさんのご苦労や
製造過程を体感することでニーズへの解像度を上げることも狙いのひとつです。
こうして得た力は
次の100年を生きる力になると信じています。
設計
35mmの「寄れる」レンズが欲しい。
35mmレンズの最短撮影距離はたいてい25〜40cm。
しかし、それよりも寄りたい。
これはカメラ愛好家でもある弊社社長の要望でした。
目指すは「世界一寄れる35mmレンズ」
作るなら、まだこの世にない写真用レンズを作りたい。
超広角レンズや、超望遠レンズなどの特長のあるレンズもいいけれど
世界中のレンズメーカーで作られている「35mmレンズ」。
この世界最高峰を作ったらカッコイイ。
そもそも昔のカメラは、
レンズと画角を確認するファインダーの位置がズレているので、
最短撮影距離を短くしてしまうと、
実際のレンズの画角と、ファインダーから見える画角の差が開いて
思ったような写真が撮れません。
なので、むしろ寄れない方が良かったのです。
しかし、今はデジタルカメラの時代。
レンズの画角は撮影中にそのまま確認ができます。
いくら寄れても問題ありません。
マクロボタンを押す必要もなく、寄れるレンズ。
実現させたい!
試行錯誤の上、できた設計は
・使用するレンズ10枚
・うち、非球面レンズ3枚
・部品の総数は約70個
通常、非球面レンズは2枚で設計することが多いのですが
そこを3枚にして、精度を上げます。
また、通常非球面レンズの裏面は球面であることが多いので、
一般的なレンズは非球面があっても2面です。
しかし、今回は3枚のうち2枚は両面とも非球面の設計なので、
計5面の非球面となります。
通常2面のところ、2.5倍の5面です。
非常にチャレンジングな設計となりました。
設計通りに作れば、世界一寄れるレンズの完成です!
レンズの製造
レンズ製造の流れは、簡単にいうと
① 調合した材料を熔解し、ガラスの塊をつくる。
② それを金型へ入れてプレス。
③ アニールという熱処理とコーティングを行う。
④ 検査をして完成
普段からやり慣れているこの工程ですが、
今回はこの工程一つ一つにも、通常よりさらに精密さを必要としました。
①で作ったガラスも、ロットが違う物はNG。
②で使用する金型作りは、通常2回の修正を経て作製しますが、今回は3回。
金型の作製も仕上げは人の手を使って、ミクロン単位で調整します。
ガラスの表面の精度のことを「面精度」と言いますが、今回許された範囲は
東京ドームのグラウンドに例えると
グラウンドの地面を5mmの誤差以内で平らにするレベル。
ガラスの軸、「偏心」で許される誤差は
東京スカイツリーで例えると
スカイツリーの先端から、地面にある直径20cmの的に矢を当てるレベル。
人の手でその精度に仕上げていくには、長年の経験と感覚が頼りです。
製造したレンズは、通常は抜き取り検査をしていますが、今回は全数検査。
しっかり検査をして、パスしたものだけが組み立てに進みます。
材料は揃った! あとは設計通りに組み立てるだけです!
組み立て
完璧な設計とレンズがある。
後は組み立てるだけ。
そう思われるかもしれませんが、これが一番の難関です。
部品となるレンズは、慎重に作ってはいますが
求められる数値はとても精密なので、わずかながら個体差があります。
そのそれぞれに個体差がある部品を、
個体差が出ないように組み上げるには
しっかりしたレンズ設計の知識と、
高度なレンズ組み立ての技術がないと不可能なのです。
簡単に言えば、誤差+2と、-1.5と、-0.5を組み合わせて0を作る作業。
誤差の場所、軸、数値、それぞれが様々ですが
帳尻を合わせるように、パズルのように組み合わせていく。
10枚あるレンズのうち、1つのレンズの間隔が30ミクロン(髪の毛の1/3程度)ズレただけでも使い物になりません。
そして、部品製造をメインにやってきたSUMITAには
その組み立ての経験がありません・・・
未知の世界です。
部品の数は約70個。
完全なアナログ作業です。
1つ作るのならなんとかできても、量産するのがまた難しい。
全くの未経験ですので
まずは既製品レンズの分解と組み立てを繰り返し
肌感覚を鍛えるところからのスタート。
組み立てマイスターの方を紹介いただき
海外での修行も重ねました。
やってみてわかった、大変さ、凄さ。
精度の高い写真用レンズは驚くほど高価ですが、
その金額にも納得です。
大変だろうな。とは思っていましたが
想像以上に時間がかかりました。
100周年の記念事業ですから、100周年の期日に合わせて
無理矢理にでも作れ! という形も選べたかもしれません。
許される誤差の範囲を広くすればそれも可能です。
でもそれはしたくない。
全てのものに精密さを求められている昨今、
今後もレンズに求められる精密さは加速するでしょう。
その時に、この経験は力になるのです。
がんばれ、ふんばれ。
こうしてプロジェクト開始から4年。
思ったより時間がかかってしまいましたが、
ようやく胸を張ってお届けできる、写真用レンズが出来上がりました。
やれば、できた。
やらないと、
いつまで経ってもできない。
住田のこれからの100年は、
始まったばかりです。